「うつ病」を克服した経営者が語る復活までの2年半の軌跡


現在、経営者として活躍中の村井氏は3年前に突然うつ病になり様々な苦しみを経験しながらも、克服しました。村井氏は、うつ病に苦しむ人々の為に改善のきっかけになればと考え、自らの体験を執筆しようと決意しました。
今回は、うつ病から回復する為の重要なターニングポイントとなったNHKスペシャルから得た気づきについて、お話いただきます。(なお、本記事内で説明されている症状、治療内容はあくまで村井氏個人の体験したものです。)

NHKスペシャル「病の起源 第3集 うつ病 ~防衛本能がもたらす宿命~」は、間違いなく、その後の急回復に繋がる最大のターニングポイントでした。放送の内容の、どこがどのように参考になり(納得でき)、その後のどのような決断や行動に結び付いたのか…について、ご説明します。


◆番組の骨子

この番組の要点をまとめると以下のようになります。

・うつ病のメカニズムは脳のもっとも古い部分(人間の感情に関わる部分である大脳辺縁系)の中心となっている「扁桃体(へんとうたい)」が、過剰な恐怖や不安が続くと暴走し、ストレスホルモンが過剰に分泌され、その状態が続くと脳がダメージを受けて萎縮することである。結果、意欲や行動が低下する。

・人類の遠い祖先(生物の進化の過程で最初に脳を持ったと言う意味で)である魚類は、約5.2億年前に現れた時点で初めて脳ができ、その中に扁桃体ができた。当時の魚は立場的に最も弱い種であり、周りは天敵ばかりであった。

・扁桃体は、敵が近づくとそこからストレスホルモンを分泌して全身の筋肉を活性化し、運動能力を高めて天敵から素早く逃れられるようにする。一方、危険が遠ざかればストレスホルモンが減少する。このお蔭で魚は生き延びることができ、結果的に我々人類が誕生したのである。そして、この魚類がうつ病になるのである。

・ゼブラフィッシュという魚を2組に分けて水槽の中にいれ、1組は通常の状態で飼育、一方を天敵がいる水槽の中で1か月間にわたって飼育すると、後者は最初こそ天敵から逃げ惑うが、その内に(徐々に)体の働きが緩慢になって来て、やがて全く動かなくなる。

・まさにこの時、魚は人間で言うところのうつ状態にあり、そのストレスホルモンを調べてみると異常に高くなっている。この状態は、天敵がいなくなっても元には戻らない。

つまり、ストレスホルモンが適度に出ている時、それは、魚にとっての生き残る為に役立つが、過剰になると身体にダメージを与え、とりわけ、脳細胞に対するダメージは神経細胞の委縮につながる、簡単に言えば脳が働かなくなって(神経系統に信号を出せなくなって)動けなくなるということなのでした。


◆重大な気づき

ここまでの放送を見て、大変大きな気持ちの変化がありました。それは、うつは、ストレスホルモンの出過ぎという明確な原因のあるれっきとした病気なのだ…との気づきです。

放送を見るまで私を苛んでいたのは、自分は人間として弱いから、経営者として未熟だったから、会社の窮状に負けたのだという思いでした。矛盾するようですが、経営者として高いプライドを持っていた為、その敗北感は、耐えがたいものでした。

入院を決意する直前には、CEOであった当時の会長から、「このまま2度目の自己破産を経験して人生を終えるのか! 事業立ち上げ時の精神に帰って死ぬ気でやれ!」との叱咤激励をうけ、将来に対する不安がありながらも、その不安について考える事ができないほどの所まで追い込まれていました。

結果として、「このまま会社にいたのでは、精神的に破綻してしまう」…という思いで入院施設に逃げ込んだのでした。

しかし、この番組をみて、違う角度から「うつ病」を見る事が出来ました。つまり、「うつ病」とは、人間が本来持つ防衛本能が発揮された結果であり、ある条件下では、精神の強弱に関係なく、誰にでも起こる病気なのだと思えたのです。そう思い至ると、スーと気持ちが楽になりました。

うつになる前以上に、精神的にも肉体的にも強くなったと自覚するまでに回復した今だからこそ振り返えることが出来るのですが、当時の私は水槽の中の魚と同じでした。

実は社長と言っても、上にはCEOとしての会長がいるサラリーマン社長だったのです。
その意味では、会長は水槽の中の天敵でした。会社の口座に現金はほとんどなく、明日までに社員の給料を用意しなければならない時も、何も言って来ませんし、何もしません。
私のわずかながらの資産の状況も性格も実力もすべて把握していました。くじけそうになると24時間、時間を問わず叱咤激励のメールが飛んできました。その叱咤激励は、稲盛さんの「生き方」を100回読んで実践しろと…というようなこれまでの人生を全否定するような強い言葉でした。
最後は、読むと精神が崩壊するのではないかという怖さからメールを開けなくなっていました。

今回うつ病になったのは、CEOからの恐怖に対して、体が正常に働いてストレスホルモンを出し過ぎ、結果、脳にダメージを与えただけなのだ。これまでの人生が間違っていたり、心がひ弱だったからではないのだ。むしろ、体が素直に働いて、私を守ってくれたのだと、この番組を観る事により、心の底から思えたのでした。


<執筆>
村井哲之
広島大学 政治経済学部 経済学科卒
法政大学環境マネジメント研究科修士課程中退
事業構想大学院大学 研究員
環境プランナー
リクルート、第二電電(現KDDI)等を経て、
現在、日本初の廃棄のコンシェルジェ
総合商社 (株)イブロン代表取締役


Mocosuku編集部

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